読売新聞 タービンの滅菌
2014.07.20 カテゴリ:医療
国はいよいよ歯科医院の整理淘汰に手をつけた
歯科用ハンドピース
(突然スクープされたハンドピースの滅菌不徹底 )
歯科用ハンドピース(タービンやコントラ、超音波スケーラなど)を「患者ごとに」交換・滅菌している歯科医療機関はじつはほとんどありません。
この歯科医院の滅菌不徹底の問題は当方は何年も前から業界の内情を知る人から聞いていました。しかし診療報酬設計は既得権益の綱引きの結果着地しているもので、国の医療費の再配分の矛盾として、だれも手を付けられるものもないままです。その結果放置された歯科の滅菌不徹底の問題は、関係者ならだれでも知っていることでも、だれも口にできないという類のそら恐ろしい白昼の死角だというしかないものだったのです。
(追い打ちをかけた厚労通知 )
それを読売新聞が5月に突然スクープして白日の下に晒し、追い打ちをかけるように厚労省は6月4日に行政通知を出したわけです。通知の内容は「今般、歯科用ハンドピースの滅菌処置が不十分である旨の報道があったところである。(中略)平成23年6月17日厚労通知「医療機器を安全に管理し、適切な洗浄、消毒または滅菌を行うとともに、消毒薬や滅菌用ガスが生体に有害な影響を与えないよう十分に配慮する」に、(中略)「使用したハンドピースは患者ごとに交換し、オートクレーブ滅菌すること」を加え、(中略)ハンドピースの滅菌等の院内感染対策の啓発に努めるようお願いしたい」というもの。
スクープから通知までわずか半月。あまりに迅速すぎで出来レースのニオイすらします。
(通知通りの滅菌をしている歯科はほぼない)
通知でいう「滅菌」の方法はオートクレーブ滅菌(高圧蒸気滅菌)とEOG滅菌(ガス滅菌)の2つだけです。タービンやプラスチック製品などはオートクレーブでは寿命が短くなるか、即破損してしまいます。となるとEOG(ガス滅菌)以外では患者ごとに滅菌したものを交換するなどということは事実上できません。
タービンなどの患者ごとに滅菌した上での交換をしている病院は「ガス滅菌」を導入しているところだけといえます。ただし導入には法外なコストがかかるため、まったく普及していないのが現実です。
厳密に考察していくと、読売がいう7割という数字どころか、実際にはほとんどの歯科医療機関(もちろん大学病院も含め)でハンドピースの滅菌は実施されていないと考えるべきなのです。
(歯科医院はコスト負担に耐えられない )
視点を滅菌される器具に転じて考えても、患者毎にタービンなどを交換するとなるとスペアを常備する必要が生じます。もし、この行政通知が徹底されれば、日本中の歯科医院でタービンもコントラもスケーラーハンドピースも1本数万円〜10万円もするものを数十〜百本のレベルで用意せざるを得なくなります。
行政の強制力を背景に、巨額需要が見込める歯科医療機器業界は利権の皮算用でほくそ笑んでいると思います。ただし、歯科医院の側に費用負担余力があるかというと疑問です。そもそも歯科の設定診療報酬が低すぎて、各開業歯科医院が一方的にコスト圧力を受け止める余力などないという現実の壁があります。なぜ診療報酬点数の変更とセットでシステムを再構築する指導を考えないのか、今回の厚労通知の実効性には疑念ばかりが残ります。